実験と問題演習

現役の薬剤師や薬学生が指導する「こもれび理数塾」という学び舎が、港町神戸にあります。実験や観察だけでなく、様々なレベルの応用問題を解き、屋外学習も体験させてくれる教室です。

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この教室を主催されているのは、こもれび薬局代表の植芝亮太さん。5月麻酔科学会の神戸で出会い、お互いに有用な情報を交換しています。尊敬する植芝さんから、有難い質問を受けました。その内容をblogに公開し、ここでみなさんと共有したいと思います。

「薬膳カフェについて」

植芝:どの様な形態での営業を、最終的に目指しておられるのでしょうか?食養生に特化した未病・予防の段階を対象にしているのでしょうか、薬物療法の服薬指導を提供する場所をも含めたトータルの薬局機能に含まれる形態を目指されているのでしょうか、それ以外に何かお考えがあるのでしょうか?

末田:食養生(予防)と薬物療法(指導)選択肢の二つから、未来像として薬膳カフェの答えを選ぶなら、後者の「薬局機能の可能性を探る場所」です。薬膳カフェという言葉で顧客へは「お洒落な予防」を感じさせる工夫を行っていますが、実際は3階に薬局の店主(薬剤師)が住んでいる「薬物療法よろず駆け込み寺」です。刻み生薬からオピオイド点滴まで対応できるようにしたのは、「よろず」の根拠をもたせるという理由です。営業の形態は5年間かけトライアンドエラーを続けていますが、なかなか光は見えてきません。本当に苦労ばかりのカフェ経営でしたが、不思議なことに希望の灯が消えたことはありません。希望だけはずっとあって、より一層そのことがはっきりしてきた印象のある令和の時代です。

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植芝:薬物療法よろず駆け込み寺ですね。イメージが良く伝わります。

末田:店舗のことですが、店主が居心地良く感じない場所では、どんな商売でもその場所への集客は見込めないと考えています。さらに付け加えるなら、いつまでも顧客に迎合していたのでは「新しい未病文化」は作れないとも感じています。もう一つ確かなことが、店主がお金に翻弄されていたのでは「新しい文化」への道は続いていかないということです。

植芝:食養生に関しての取り組みは、いかがでしょう。

末田:安価に薬膳を体験したい方には、学びあえる調理場所を提携している施設の中から選び、材料実費で体験していただけます。高級志向の顧客に対しは、カフェの2階にセンターキッチン、高級家具を備えた「世界最高の上質な薬膳料理教室」のできる場所を用意しています。県外から有名な指導者を迎え、漢方薬剤師の末田も参加する予定です。これからの食養生(未病)に関しては、これらを今後少しずつ機能させていく予定です。

植芝:薬膳料理はどのようなコンセプトで開発されていますか?漢方薬としてみた場合の五行説や薬味・薬性などでしょうか、現代の栄養学を取り入れたものなのでしょうか。

末田:山陰出雲地方の食材を使った家庭料理だったり、中国山地真庭地方の食材を使った創作イタリア料理だったり、その内容はここまで、それぞれの料理人さんたちへおまかせでした。必要な生薬などは薬局で用意して五行の説明などは薬剤師の末田が行いますが、実際に末田自身が参加して料理を提供するまで介入することはなかったです。最近では、末田も選手として参加するC-1グランプリと称したスパイス(薬味)カレー選手権や、M-1グランプリと称した味噌汁選手権(発酵文化)を薬膳カフェで計画し行っています。

植芝:なるほど、主催者も参加し「楽しむイベント」ということですね。

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末田:そのとおりです。くらしそのものを楽しく考える「薬膳料理」。誰でもできる遊びのような食事会が、薬膳料理イベントのコンセプトです。近隣の基幹病院から腎臓食などに精通した管理栄養士(40歳)が、今年の6月に入社してくれました。今後は現代の分子栄養学なども取り入れ、薬局管理栄養士研究会への研究発表を考えています。地域近隣薬局の「糖尿病療養支援研修」を修了した薬剤師さん、嚥下食コンクールで全国優勝した管理栄養士さん、メディカルカフェ運営の管理者経験者や薬膳料理研究家さんなど、「薬膳カフェ」で食事しながら定期的に情報交換をしています。

植芝:私の周りの同業者では、薬膳の考え方や作り方を教えるスクールとして成功されている事例が数例あります。元々の飲食店がメニューとして薬膳を提供するという事例もあるのですが、薬膳料理を提供する事はかなりハードルが高く、採算が合わないと聞いています。

末田:採算を考えると、飲食店としては経営が成り立ちません。学びの場であるということが、とても重要なポイントです。

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植芝:今後薬膳料理の提供をするには、何が必要と思われますか?

末田:とてもありがたい質問です。それがまさに、これから末田薬局が始める「3ヶ月プログラム」の経営革新内容です。先ほどの質問でもお答えしましたが、食材を厳選し本当に顧客のための薬膳料理を提供する運営って、赤字で行う慈善活動(地域活動)です。どこまで努力しても、株式会社が行う営利活動(利益追求)にはなりえません。実際に5年前のカフェ開業事業計画では、年間200万円の赤字まで事業を許容する限度額を決めていました。末田薬局広報活動の一環としてカフェ営業を行い、既存の顧客への恩返しを行うことが目的。当時のビジョンはその様になっていました。現在月1回の営業日に落ち着いているのは、そういった経営上の背景から継続方法を考え抜いた結果です。

植芝:もっと広がりをもたせるには、どのようなアイデアをお持ちでしょうか。

末田:薬膳料理教室に参加して、良い話を聞き美味しく食事して帰る。特別な日(イベント)の一つでは、地域の未病対策へ成長していくことは困難です。薬膳料理の提供を継続していくため、薬膳カフェのコンセプトに共感し協働し、一緒に「新しい文化」をつくってくれる地域の仲間つくりが今後の必須課題です。生活を変えるため、くらしを変えていくため、地域をより良く変えていくため、何が本当に必要なのかを、末田は50年間ずっと悩んでいます。現時点の答えとしてお伝えできることは、「新しい旅への参加を企画するプロジェクト」が突破口になりはしないかと考えているということです。新しい自分に出会う旅、ヘルスケアツーリズム。末田自身も様々な企画に参加し、小児のサイクリング伴走や認知高齢者の旅行随行を行いながらそのトライアル中です。

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植芝:薬膳カフェを開業しようと考えている薬剤師さんたちに、最後にひとことお願いします。

末田:薬膳カフェ開業の目的は何でしょうか。新しい顧客に出会うためでしょうか。新しいあなた自身に出会うためでしょうか。それぞれが新しい自分に出会う旅立ちのため、薬膳カフェは存在するように思います。薬物治療が必要なケースには薬剤を提供し、相互扶助の精神による国民皆保険の恩恵を享受しながら、現在問題となっているフレイルやしびれを改善させること。希望という目の輝きを取り戻すための伴走を行う場所、それが末田薬局の考える薬膳カフェです。そして、薬膳カフェという地域の希望資源の経営を継続するためには、国政までも巻き込むような「明確な目標設定」が必要だと、いま末田は考えています。

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