朝日にのびる影

回顧展のギャラリーでの一番多い質問は、ポスターに使用している写真のことです。父が美作滝尾の古い駅舎で、煙草をくゆらせている朝日のシルエット。

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真ん中に椅子のようにみえるのは、木製の改札口です。昭和3年に立てられた小さな木造の駅舎、長い年月をかけて使い古された木の質感が伝わって来る場所での一枚。映画「男はつらいよ」(山田洋二監督 渥美清主演)の最終作となった映画の冒頭シーンで登場するこの駅舎を、父は生前毎朝ピッカピカに拭き掃除していました。この場所を山田監督が気に入って、寅さんのロケが行われるなんて思いもよらない頃のことです。

ある朝、いつものように父が駅舎を掃除していると、都会の香りがする知らない男性から声をかけられたそうです。

「写真に入っていただけますか?」

何ヶ月か経ったある日、父のもとにこの写真が送られて来ました。古き良き時代の駅を集めた写真集をつくるため、全国を飛び回っているプロの写真家だったみたいです。朝日に清々しくのびる改札のながい影、対照的な父のシルエットは彼の人生を物語っています。

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僕はいま、陰徳を積むということの意味を、この場所であらためて考えています。父が好きで毎日掃除していたぬくもりを感じさせる駅。ほっと心和ますことのできる津山の名所です。

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